第37章 【第三十二話】闇に沈む江戸
少し離れた場所で。
戦況を見ていたティエドールが、静かに目を細めた。
「……行ってあげなさい」
その声に、神田が六幻を握る。
マリのワイヤーが、静かに鳴った。
二人は何も答えない。
ただ、次の瞬間には、無言のまま戦場へ駆け出していた。
その時。
崩壊音の隙間を縫うように、短い旋律が響いた。
ティファの歌だった。
ティキと刃を交えながら、ほんの一瞬だけ零した、ニルヴァーナの響き。
力を解放するためではない。
折れかけた心を、少しだけ支えるための歌。
ミランダが、はっと顔を上げる。
潰れそうだった胸の奥に、わずかに息が戻った。
「……まだ」
震える指で、時計盤を支え直す。
「まだ、守れる……!」
時計盤が、再び強く輝いた。
ティキは、その旋律を聞きながら目を細める。
「へぇ」
黒い瞳が、ティファを観察するように歪んだ。
「君が、ヴェインが言ってた“セトラのお姫様”だったのか」
ティファの動きが、一瞬止まる。
「……ヴェインを知っているの?」
ティキは笑った。
「知ってるよ。同じ変わり者同士だしね」