第4章 【第三話】檻と家のはじまり
私は小さく頷き、青年へ向き直った。
「初めまして。 ティファです。これから、よろしくお願いします」
神田は一瞬だけ、こちらを見た。
暗く、鋭い瞳。
視線がぶつかっただけで、空気が張り詰める。
「……馴れ合う気はねぇ」
吐き捨てるような声だった。
「そう」
私が素直に頷くと、神田の眉が僅かに動いた。
「でも、任務で一緒になることはあるでしょう。その時は、足手纏いにならないようにするわ」
神田は数秒、無言で私を見ていた。
怯えるでも、怒るでもなく、ただ言葉を返した私を測るように。
やがて、小さく舌打ちする。
「……勝手にしろ」
それだけ言うと、神田は食事へ視線を戻した。
向かいで、ラビが妙な顔をして私を見ている。
「……ティファ、すげぇな」
「何が?」
「ユウに睨まれて、そのまま普通に会話続ける奴、あんまりいねぇさ」
「挨拶をしただけでしょう?」
首を傾げると、ラビは数秒ぽかんとした。
それから、堪えきれないように吹き出す。
「ははっ……やっぱ面白ぇな、 ティファ」
昨日、回廊で聞いた軽やかな声。
科学班の部屋で一瞬だけ覗いた、乾いた静けさ。
そのどちらとも少し違う、自然に零れたような笑い声だった。
私は、思わずラビを見る。
彼はまだ楽しそうに笑っている。
その表情には、何かを測るような冷たさは見えなかった。
ただ、年相応の少年らしく、心から面白がっているように見える。
「……何さ?」
視線に気付いたラビが、笑いながら首を傾げる。
私は小さく首を横へ振った。
「いいえ。何でもないわ」