第36章 【第三十一話】命を繋ぐ海
「でも……」
「貴女ひとりが背負うことじゃない」
ティファの声は震えなかった。
震えさせてはいけないと思った。
今にも折れそうなミランダの心を、これ以上沈ませたくなかった。
「ここまで来るために、みんなが戦った。みんなが選んだ。だから……貴女だけが背負うなんて、絶対に違う」
ミランダの瞳が揺れる。
「不思議ね……ティファちゃんが言うと……」
掠れた声。
「大丈夫って……思えるの……」
どくん。
ニルヴァーナが、また小さく脈打った。
その響きが、胸の奥に微かな痛みを残す。
ミランダは涙を拭いながら、ぎこちなく笑った。
「もう少しだけ……頑張るわ……」
ティファはその手を握ったまま、小さく頷いた。
「ええ」
けれど、分かっていた。
もう長くは持たない。
この船で江戸まで辿り着くことは、不可能だった。
やがて一行は、小舟へ移るため甲板へ出た。
タイムレコードを解けば、この船はもう保たない。
壊れていた箇所も、受けた傷も、すべて現実の時間へ戻ってしまう。
雨が降っていた。
細く、冷たい雨だった。
甲板に出たティファは、違和感に気付く。
静かすぎた。
さっきまであれほどいた船員達の姿が、ほとんど見えない。