第35章 【第三十話】紅い雪の降る海
次の瞬間だった。
遠い海上で。
どんっ、と巨大な閃光が弾けた。
全員が顔を上げる。
遥か彼方。
雲の向こう。
爆発のような光が、一瞬だけ夜空を染めた。
「……っ」
ラビの顔色が変わる。
「あの方向……」
ティファも息を呑んだ。
リナリーだ。
間違いない。
そして、ミランダのタイムレコードから鋭い光が放たれた。
ミランダの顔色が変わる。
誰かの時間が、タイムレコードの内側から解き放たれた。
その後、船内は戦後の処理で慌ただしくなった。
けれど。
いくら待っても。
リナリーは、戻って来なかった。
「……リナリー?」
クロウリーが不安そうに呟いた。
沈黙。
風だけが吹いている。
ラビが、ぎり、と奥歯を噛んだ。
「……遅ぇ」
低い声。
片方だけ覗く翠の瞳が、遠くの空を睨み続けている。
そして。
「待ってられっか」
ラビが立ち上がった。
「ラビ!?」
ティファは反射的に、その袖を掴んだ。
船員達も慌ててラビの前へ回り込む。
「馬鹿野郎、ボウズ!お前だって重傷だろ!?船から出たら傷が戻るんだぞ!」
「今すぐ女の子の所まで船戻すから!だから待て!」
けれどラビは、真っ直ぐ前を見たままだった。
「放せよ!」
「船を向かわせるより、オレが行った方が早ぇんだよ!!」
ラビが船員達を強引に振り切ろうとする。
「ラビくん、やめて!」
ミランダが半泣きで叫んだ。
「船員さん達に乱暴しないで!この人達は、私や船を守ってくれたのよ……!」
その言葉に、ラビの動きが一瞬止まった。
けれど、それでも彼は前へ出ようとする。
「船から出たら、傷が戻っちゃう……!」
ミランダの声が震えた。
「出血しそうな所を教えて。ぬ、布で縛らなきゃ……!」
そうだ。
ラビの身体は、まだ完全に治ったわけではない。
タイムレコードによって、“戻されている”だけ。
範囲外へ出れば、傷が戻る。
それでも。
ラビは止まらなかった。
「んなこと、今どうだっていいだろうが!!」
怒鳴り声が、甲板へ響く。
「リナリーが心配じゃねェのか!!」
空気が震えた。
「アイツは仲間だろ!!」