第35章 【第三十話】紅い雪の降る海
けれど、様子がおかしい。
そいつは巨大な結晶を抱えていた。
「な、何だ……?」
ラビが顔を歪める。
海上。
足場はない。
ここで戦えば、最悪落ちる。
しかも相手は空中。
けれど、そのAKUMAは突然口を開いた。
「お前、Jr.っちょ?」
「……は?」
ラビの顔に、完全な疑問符が浮かぶ。
AKUMAは困ったように結晶を持ち直した。
「手ェ超痛ぇー。手伝ってくんない?」
「はぁ!?」
「これ、AKUMAのオイラにゃキツいんだっちょ」
何言ってんだコイツ。
ラビが本気でそういう顔をする。
その時だった。
結晶の中が、微かに見えた。
「……っ!」
ラビの目が見開かれる。
中に、人影。
傷だらけの少女。
長い黒髪は焼け落ち、身体中が傷付いている。
「リナリー!!?」
結晶の中で、リナリーは意識を失っていた。
AKUMAが、けろっと言う。
「まだ生きてるっちょ」
ラビの鼓動が跳ねた。
「この結晶、この娘のイノセンスだっちょ」
「……何?」
「娘がレベル3と相討ちしようとしたところを、ガードして守ったんだっちょな」
ラビが息を呑む。
頭の中で、言葉が反芻される。
装備型イノセンス。
自律防御。
適合者を守るため、勝手に動いた。
「……そんな話、聞いたことねェ」
ラビが呆然と呟く。
「装備型のイノセンスが、適合者の意思なく勝手に動いたってのか……!?」
その時だった。
黄色い物体が、ふわりと飛んできた。
ティムだった。
そのままAKUMAの頭へ、ぴょこんと乗る。
しかも。
妙に親しげだ。
「……は?」
ラビがまた固まった。
AKUMAが、頭のティムを見上げて笑う。
「主の匂いでもすんちょかな?」
AKUMAは、胸を張るように言った。
「AKUMAはAKUMAでも、オイラはクロス・マリアンに改造されたAKUMAっちょ!!」
数秒。
ラビは言葉を失った。
クロス・マリアン。
その名前だけで、嫌な予感しかしない。
そして。
「…………はぁぁぁ!?」
ラビの絶叫が響いた。