第35章 【第三十話】紅い雪の降る海
AKUMAのウイルスが、ラビの体内から引き抜かれていく。
やがて、クロウリーはラビを抱えたまま、甲板へ跳び戻った。
「ゲボッ、ゴホッ……あれ……?オレ、撃たれ……っ?」
ラビが咳き込みながら目を瞬かせる。
その声に、ティファはようやく息を吸えた。
胸の奥で固まっていた恐怖が、少しだけほどける。
「……よかった」
小さく零れた声は、砲撃音に紛れて消えた。
けれど、レイピアを握る指先には、まだ震えが残っていた。
その横で、クロウリーがふらつきながら立っていた。
「ふぅ……生き返った」
「へっ!?」
ラビは自分の首元に残った噛み跡を見て、顔を引きつらせた。
クロウリーは口元を拭いながら、どこか得意げに言う。
「よかったな。毒が回り出す前なら、他者の内の毒も吸い出せるようだ」
一拍。
「ごちそうさま。貴様の血も、少し飲んでしまったがな。くっくっくっくっ」
ラビが固まった。
完全に固まった。
その時。
「馬鹿もん!!」
ブックマンの怒号が飛んだ。
「お前ら、いつまでグズグズやっとるか!!さっさと敵を倒さんか、ボケっ!!なぜ“木判”を使わんのだ、ラビ!!」
ラビがはっと顔を上げる。
「……そっか、その手があったさ!!」
彼はクロウリーの肩を掴み、素早く耳元へ囁いた。
「クロちゃん、耳貸して」
「む?」
数秒後。
クロウリーの目が輝いた。
「なるほど!!」
ラビが鉄槌を構え直す。
「木判――天地盤回!!」
巨大な鉄槌が唸りを上げる。
その瞬間、沈みかけていた船もなぜか急浮上し、傾きが少しずつ戻っていった。
「どいてくれ、雲よ!!」