第35章 【第三十話】紅い雪の降る海
その時だった。
「こっちよ、お嬢さん方」
前方から声がした。
アニタだった。
深紅を基調とした動きやすい衣のまま、廊下の先に立っている。
その隣には、腕を組んだマホジャがいた。
アニタはリナリーを見ると、ふっと表情を和らげる。
「部屋、空けておいたわ」
柔らかな声。
「着替えるなら使ってね」
「……ありがとうございます」
リナリーが小さく頭を下げた。
アニタはそれ以上、何も聞かなかった。
ただ、静かに言う。
「生きている者は、前に進むしかないのよ」
その言葉が、胸へ落ちた。
ラビが小さく視線を伏せる。
ティファも静かに頷いた。
そして、リナリーの背をそっと押す。
「行きましょう」
部屋へ入ると、潮の匂いが少しだけ遠くなった。
ミランダが箱を開ける。
「こ、これが最新式の団服なの……!」
中から現れたのは、新しい教団の黒だった。
以前よりも軽量化された、細身の造り。
首元まで閉じたハイネックは隙を許さず、それでいて肩や腕周りは驚くほど動きやすい。
深く入った前スリットからは黒いタイツとショートブーツが覗き、長い後ろ裾は波打つように静かに揺れていた。
胸元と背には、教団紋章を模した白銀の刺繍が鋭く浮かび上がっている。
ティファは静かに袖を通した。
軽い。
けれどその分だけ、身体が戦いへ研ぎ澄まされていくような感覚があった。