第35章 【第三十話】紅い雪の降る海
船室へ続く廊下を、ティファはリナリーと並んで歩いていた。
修復された床板が、足元で静かに軋む。
後ろでは、クロウリーが「新しい団服であるか!」と少しだけ明るい声を上げ、ミランダが抱えていた箱を慌てて持ち直していた。
少しだけ。
本当に少しだけ、空気が戻ってきていた。
けれど。
隣を歩くリナリーの足取りは、まだ重い。
ティファはそっと彼女を見る。
「……無理して笑わなくていいのよ」
リナリーが小さく目を見開いた。
「ティファ……」
「でも」
ティファは前を向いたまま続ける。
「止まらないで」
静かな声だった。
「アレンはきっと、私達が止まる方を嫌がる」
その時。
後ろから、がしっと肩を組まれた。
「……いたっ」
振り返るまでもない。
ラビだった。
「何、急にしんみり空気作ってんさ」
いつもの軽い調子。
けれど。
少し無理をしているのが、ティファには分かった。
「さっき泣かせた人が言う?」
「うっ」
即座に刺さる。
クロウリーが真顔で頷いた。
「最低であったな」
「追撃やめて!?」
ミランダまで、少し困ったように眉を下げながら口を開く。
「ご、ごめんなさい。でも……私もちょっと思ったわ」
「ミランダまでぇ!?」
そのやり取りに。
リナリーの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
本当に、少しだけ。
けれど。
確かに笑った。
ティファはそれを見て、小さく息を吐く。
よかった。
まだ、大丈夫。
完全には折れていない。