第34章 【第二十九話】白光の行方
その瞬間だけ。
ウォンの視線が、ほんの少し揺れた。
けれど。
「お答え出来ません」
返ってきたのは、それだけだった。
嫌な汗が背中を伝う。
ティファは無意識に拳を握り締めた。
怖い。
聞きたくない。
でも。
知りたい。
その時、隣でリナリーが崩れそうになる。
ティファははっとして、その肩を支えた。
今一番壊れそうなのは、リナリーだった。
「リナリー」
声を掛けても、彼女はうまく返事が出来ない。
ただ唇を噛み、必死に涙を堪えていた。
ラビはウォンの答えに苛立ったように舌打ちする。
空気が重い。
息が詰まりそうだった。
その時だった。
どたんっ!!
突然、背後で盛大な転倒音が響いた。
全員が振り返る。
そこには、一人の女性が盛大に床へ突っ伏していた。
柔らかく跳ねた癖っ毛。
頼りなさそうに揺れる大きな瞳。
「す、すみませんすみませんすみません〜!!」
半泣きで頭を下げている。
あまりにも必死で、空気が一瞬止まった。
クロウリーが慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫であるか!?」
「ひぃっ、ご、ごめんなさいぃ……!」
ウォンが深いため息を吐く。
「……何をしているんですか、ミランダ」
ミランダ。
その名前に、ティファは小さく首を傾げた。
彼女は涙目のまま立ち上がると、壊れた船を見て顔色を変えた。
「わぁぁっ……船、すごく壊れてる……!」
次の瞬間。
彼女の手元で、懐中時計のようなイノセンスが光を放つ。
カチ、カチ、カチ――。
不思議な音が響いた。
裂けていた帆が、ひとりでに戻っていく。
焦げた木材が修復される。
砕けた部分が、まるで時間を巻き戻すみたいに再生していった。
「船が……!」
アニタが息を呑む。
マホジャでさえ、目を細めている。
ティファもその光景を呆然と見つめた。
ミランダのイノセンス。
壊された時間を、巻き戻す力。