第34章 【第二十九話】白光の行方
それでも、まだ諦めていなかった。
スーマンを救おうとしていた。
自分の身体が壊れかけても。
イノセンスが悲鳴を上げても。
それでも、手を伸ばしていた。
「アレン……」
ティファの声が震える。
次の場面で、リナリーが少女を抱え、必死に離脱していく姿が映った。
その後ろで、アレンはまだスーマンへ向き合っている。
一人で。
たった一人で。
映像が揺れる。
黒い影が現れた。
ノア。
その男が、ゆっくりとアレンへ近付いていく。
ティムの映像は断片的だった。
けれど、十分だった。
アレンの胸元へ入り込む黒い蝶のようなもの。
砕けるイノセンス。
見開かれたアレンの瞳。
そして。
白い光が、途切れる。
「……っ」
ティファは口元を押さえた。
吐き気にも似た痛みが込み上げる。
映像が消える。
甲板には、重い沈黙だけが残った。
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
リナリーが膝をつく。
「私が……」
涙が、甲板へ落ちる。
「私が、アレン君を一人にしたから……」
ティファは震える足で彼女へ近付いた。
そして、そっと膝をつく。
「リナリー」
リナリーは顔を上げない。
「貴女は、助けを求めていた子を救ったのよ」
「でも……!」
「それでも」
ティファの声も震えていた。
けれど、彼女は続けた。
「それは、アレンがきっと望んだことだわ」
リナリーの肩が、震える。
ティファはその手を握った。
「だから、今は……自分を責めないで」
リナリーは答えなかった。
ただ、握られた手を、弱く握り返した。
その力のなさが、かえって胸に痛かった。
ティファも、それ以上は何も言えなかった。
責める言葉など、あるはずがない。
けれど、慰めの言葉も見つからない。
甲板には、まだ焦げた匂いが残っている。
砕けた木片。
裂けた帆。
波間へ沈んでいったAKUMAの残骸。