第34章 【第二十九話】白光の行方
頭の奥で、何かが軋む。
まるで。
遠くで、ひとつの光が消えかけているような――。
「……アレン」
掠れた声が漏れる。
「ティファ、大丈夫であるか!?」
クロウリーの声が耳元で揺れる。
ティファは胸元を押さえ、必死に息を整えようとした。
けれど、嫌な感覚は消えない。
遠くで、白い光が砕けるような。
何か大切なものが、無理やり引き剥がされるような。
そんな痛みだけが、胸の奥に残っていた。
どれくらい、そうしていたのか分からない。
やがて、甲板の端で船員の一人が叫んだ。
「戻ってきたぞ!」
ティファは弾かれたように顔を上げた。
空の向こうから、ラビが戻ってくる。
大槌小槌を伝い、甲板へ降り立った彼の傍には、リナリーの姿があった。
ボロボロだった。
服は裂け、髪は乱れ、顔色は血の気を失っている。
ラビもまた、いつもの軽さなど欠片もない顔をしていた。
ティファは立ち上がろうとして、足元がふらついた。
クロウリーが慌てて支える。
「リナリー……!」
ティファはそれでも前へ出た。
リナリーがゆっくり顔を上げる。
その目を見た瞬間、胸の奥が凍った。
そこに、アレンの姿はなかった。
「……アレンは?」
誰も、すぐには答えなかった。
潮風だけが、傷付いた帆を揺らしている。
「ラビ」
ティファはラビを見る。
「アレンは、どこ?」
ラビは唇を引き結んでいた。
片方だけ覗く翠の瞳が、いつになく暗い。
「……スーマン・ダークが、咎落ちになってた」
低い声だった。
「アレンは、そいつを助けようとした」
ティファは息を呑む。
咎落ち。
それが何を意味するのか、教団にいる者なら知らないはずがない。
「でも、途中で……スーマンに飲み込まれてた女の子がいたんさ。リナリーは、その子を助けに行った」
リナリーの肩が、びくりと震えた。
「私が……」
掠れた声。