第34章 【第二十九話】白光の行方
「リナリー・リーです。船を出していただき、ありがとうございます」
「綺麗なお嬢さんね。必要なことがあれば、船員に言ってね」
「はい」
クロウリーも慌てて頭を下げた。
「ア、アレイスター・クロウリーである。よろしくお願いするのである」
「まあ……ずいぶん可愛らしい方なのね」
「か、可愛らしい、であるか……?」
ラビが横で吹き出しかける。
その視線がアニタへ向くと、彼女は意味ありげに目を細めた。
「それで、貴方が昨夜、裏路地の空気を殺気立たせていた坊やね」
「……坊やって」
「ラビっす。よろしく、アニタさん」
「ええ。ティファちゃんをずいぶん心配していたようで」
「そりゃ、心配もするさ」
軽く返したつもりなのだろうが、その声には隠しきれないものがあった。
最後に、アニタはブックマンを見る。
「貴方は?」
「私の方に名はない。ブックマンと呼んでくれ」
アニタは一瞬だけ不思議そうにしたが、それ以上は尋ねなかった。
「よろしくお願いします」
ブックマンも、ただ小さく頷くだけだった。
アニタは静かに息を吐く。
「危険は承知の上です。クロス様に関わった時点で、平穏なんてとっくに捨てているもの」
その声は軽かった。
けれど、そこにある覚悟は本物だった。
その時、マホジャが一歩前へ出た。
改めて見ると、その存在感は圧倒的だった。
クロウリーが思わず半歩下がる。
「お、大きいのである……!」
マホジャの目が、ぎろりと向く。
「聞こえてるよ」
「し、失礼した!」
アニタが苦笑する。
「こちらはマホジャ。私の用心棒です」
マホジャは腕を組み、一行を見下ろした。
「アニタ様を守るのが、私の役目だ」
ラビが眉を上げる。
「へぇ。強そうじゃん」
「“そう”じゃない。強い」
ぴり、と空気が張る。
ラビの口角も、わずかに上がった。
「ラビ」
ティファが慌てて袖を引く。
アニタがくすくす笑った。