第32章 【第二十八話】赤い紐の先
襖の奥は、先ほどの座敷とは別世界のように静かだった。
広すぎない部屋の中央へ、ひとりの女性が座っている。
艶やかな黒髪。
端正な横顔。
指先には、細い煙管。
美しい人だった。
けれど、単に華やかなだけではない。
場のすべてを見通しているような静かな強さが、その目には宿っていた。
ティファは座敷へ入り、静かに膝をつく。
背後で襖が閉じられる。
女は煙管から細い煙を吐き出すと、しばらくティファを見つめていた。
「顔を上げて」
言われるまま、視線を上げる。
その瞬間、女の表情が僅かに変わった。
「……なるほどね」
「?」
「貴女が、ティファちゃん」
胸が小さく跳ねる。
「私を……知っているのですか」
アニタは、どこか呆れたように笑った。
「名前だけはね。クロス様が珍しく、酔っていても口にしていた子だから」
師匠が。
思いがけない言葉に、声が出なかった。