第32章 【第二十八話】赤い紐の先
案内されたのは、鏡台の置かれた小さな控えの間だった。
室内には、化粧道具や簪、色鮮やかな衣装が整然と並べられている。
表の座敷から流れてくる弦の音が、ここでは遠く霞んで聞こえた。
マホジャが、ティファの外套へ手を伸ばす。
「失礼します」
外套が肩から外される。
隠されていた銀髪が、さらりと背中へ流れ落ちた。
マホジャの手が、一瞬だけ止まる。
「……なるほど」
「何か?」
「これなら、客の目を引くには十分です」
褒められたというより、必要な条件を確かめたような声音だった。
マホジャは衣装棚から、黒地に紫と銀の刺繍が入った衣を取り出した。
肩口が柔らかく開き、長い袖と裾には夜の花のような模様が流れている。帯元の飾りと紫の房が、灯籠の明かりを受けて微かに揺れた。
露出は控えめだが、十分に目を引く衣だった。
「今夜は、流しの歌い手ということにします。名は名乗らなくて結構です。客は珍しい歌と、少し目を引く女がいれば納得します」
その言い方へ、僅かな不快感が胸を掠める。
けれど、ここで立ち止まるわけにはいかない。