第31章 【第二十七話】黒檀の簪
店主が、一行の反応を見て首を傾げる。
「何だい。知り合いなのか?」
「……ええ」
アレンが、疲れ切った顔で答える。
「探していた、とても迷惑な知り合いです」
「元帥を、そこまで言ってよいのであるか……?」
クロウリーが恐る恐る尋ねた。
「師匠に関しては、いいんです」
アレンはきっぱり言い切る。
その姿に、ラビが小さく笑った。
ティファは、店主が示した通りの奥へ視線を向けた。
夕闇が降り始めた町の中で、ひときわ華やかな灯りを纏った建物の屋根が見える。
「あそこが、天青楼?」
「ああ。大通りを真っ直ぐ行けば、嫌でも分かるよ。町で一番派手な建物だからね」
「ありがとう」
ティファは静かに頭を下げた。
それから、皆へ向き直る。
「行きましょう。アニタさんに会えれば、師匠の足取りが分かるかもしれない」
「はい」
アレンがすぐに頷く。
その瞳には、先程までより強い光が戻っていた。
けれど、饅頭屋の店主が、湯気の立つ蒸籠の蓋を静かに閉じた。
「……あんたら、そのまま天青楼へ行くつもりかい」
その声が落ちた瞬間、場の空気が僅かに変わった。
店の外では、夕暮れの通りを行き交う人々の声が響いている。
けれど、狭い店先だけが、不自然なほど静かになった。
ブックマンが目を細める。
「何か問題でもあるのか」
店主は答える代わりに、華やかな灯りが連なる方角へちらりと目をやった。
「天青楼の周りには、ここ数日、妙な客が増えてる」
「妙な客?」
ラビの声が低くなる。