第31章 【第二十七話】黒檀の簪
ティムは大通りの上を勢いよく進んでいたが、しばらくすると急に動きを鈍らせた。
屋根の上を行きつ戻りつしている。
「……また、見失った」
アレンの肩が、目に見えて落ちた。
「人が多過ぎるせいかのう」
ブックマンが周囲を見回す。
「あるいは、クロスが一所に留まっておらんのか」
ラビが、賑やかな通りを見渡しながら肩を竦めた。
「この人数じゃ、ティムが迷うのも無理ねぇさ。地道に聞き込むしかないな」
「師匠の外見は、かなり目立つはずなんですけど……」
アレンが言う。
「師匠の場合、姿より先に悪評が出てきそうね」
ティファが思わず零すと、アレンが深々と溜息を吐いた。
「否定出来ないのが辛いですね……」
その返しに、リナリーがほんの僅かに口元を緩めた。
一行は、通りへ分かれて聞き込みを始めた。
けれど、返ってくるのは首を横へ振る反応ばかりだった。
時折、ティムが何かを感じ取ったように飛び立つ。
けれど、数軒先へ進むとまた迷うように戻ってきてしまう。
「師匠……本当に、この町にいるんでしょうね……」
アレンが疲れたように呟く。
「ティムの反応がある以上、痕跡はあるはずじゃ」
ブックマンが答える。
「じゃが、この町は人が多い。女の匂いと酒の匂いに紛れておるのかもしれんな」
「よりによって、師匠に一番似合う場所じゃないですか……」
アレンが、さらに肩を落とした。
しばらく通りを歩き続けた頃には、陽が傾き始めていた。
喧騒は衰えるどころか、夕刻を迎えてますます大きくなっていく。灯りを点す店が増え、香辛料と酒の匂いが、風へ濃く混じり始める。
その時だった。