第31章 【第二十七話】黒檀の簪
袖口から覗いた左腕は、黒く乾いた欠片のようなものを、ぼろぼろと落としていた。
「……アレン」
胸の奥が、冷える。
アレンは慌てたように腕を引こうとした。
けれど、リナリーはその手をそっと掴む。
「隠さないで」
静かな声だった。
さっきまでAKUMAを倒していた白いチカラ。
皆を守っていたその腕が、まるで内側から少しずつ削られているように見えた。
アレンは、無理に笑おうとした。
けれど、その笑みは少しだけぎこちない。
「大丈夫です。まだ動きますから」
「そういう問題じゃないわ」
リナリーの声が、少しだけ震えていた。
クロス元帥の行方。
ティムキャンピーの示す先。
そして、アレンの身体に起きている異変。
雨の音が、先程よりも重く聞こえた。
それでも、一行は立ち止まれなかった。
竹林を抜け、再び街道へ出る頃には、雨は次第に弱まっていた。
そこで待機していた馬車を拾い、一行は再び東へ向かう。
やがて山道が途切れ、前方に大きな町が見え始めた。
赤い柱の建物が並び、軒先からは色鮮やかな布が垂れている。通りには人が溢れ、屋台からは湯気と香辛料の匂いが立ち昇っていた。
沈んだ湖の町とは、まるで別世界だった。
こちらは、息をするのも難しいほどの熱気と喧騒に満ちている。
町の姿が見えた瞬間、ティムキャンピーが激しく羽を震わせた。
「ティム!」
アレンが身を乗り出す。
金色の小さな身体が、まっすぐ通りの奥へ飛んでいく。
「師匠の気配があるんです!」
馬車が止まり切るより先に、アレンは扉へ手を掛けた。
「アレン君、待って!」
リナリーが慌てて声を上げる。
けれど、アレンはもう石畳へ降り立っていた。
ティファ達も続いて馬車を降りる。