第31章 【第二十七話】黒檀の簪
ティムキャンピーの後を追い、一行は湖畔の町を離れた。
道中、誰もほとんど口を開かなかった。
馬車の車輪が乾いた道を叩く音だけが、一定の間隔で響いている。
リナリーは窓の外へ顔を向けたまま、時折そっと目元を拭っていた。
クロウリーは膝の上で手を組み、俯いたまま動かない。
アレンは前方を飛ぶティムを見失わないよう、ずっと視線を上げていた。
けれど、馬車が大きく揺れた拍子に、ふとティファの方へ目を向ける。
「……ティファ、大丈夫ですか」
静かな声だった。
ティファは一瞬、答えに迷った。
大丈夫と言えば、きっと嘘になる。
ヴェインのことも。
母のことも。
仲間の死も。
胸の中で、まだ何ひとつ整理出来ていない。
「……大丈夫とは、言えないかもしれない」
小さく答える。
アレンの瞳が、僅かに揺れた。
けれど、彼は無理に笑わなかった。
「そうですよね」
それだけ言って、少し目を伏せる。
「僕も……まだ、何を考えたらいいのか分かりません」
窓の外へ、乾いた景色が流れていく。
「でも、神田が無事だと聞けて……よかったと思います」
「ええ」
ティファは、静かに頷く。
隣で、ラビが窓の外を見たまま小さく息を吐いた。
「……無事って分かったんだから、今は信じるしかねぇさ」
低い声。
そこに、責める響きも、嫉妬を滲ませる軽口もなかった。
「ユウも、そう簡単に死ぬ奴じゃねぇしな」
「……ええ」
胸の奥が、僅かに緩む。
ラビは一度だけこちらへ視線を向ける。
その翠の瞳が、ほんの少しだけ柔らかく細められた。
今、ティファが欲しい言葉を選んでくれたのだと分かった。