第31章 【第二十七話】黒檀の簪
「……はい」
アレンが答えた。
声は沈んでいた。
けれど、視線はもうクロスの薬莢へ向いている。
「師匠を、見つけましょう」
アレンは掌の上のティムへ、そっと薬莢を近付けた。
「ティム、お願い。師匠のところへ、案内して」
ティムは一度、羽を震わせた。
薬莢の周囲をくるりと回る。
それから、ぱっと窓の外へ飛び出した。
湖の方角ではない。
町を抜けた先、東へ続く街道の方角へ、迷いなく飛んでいく。
「ティムが!」
リナリーが息を呑む。
アレンはすぐに窓辺へ駆け寄った。
「薬莢に残った師匠の気配を拾ったのかもしれません」
「なら、追うぞ」
ブックマンが即座に告げた。
リナリーは袖で涙を拭う。
顔色はまだ青い。
けれど、俯いたままではいなかった。
「……行きましょう」
声は震えていた。
「クロス元帥を、必ず見つけないと」
クロウリーも、ゆっくり拳を握り締める。
「そうであるな。これ以上、誰かが失われる前に……」
「……ああ」
ラビが低く答えた。
その表情は静かで、硬かった。
そして、ティファへ一度だけ視線を向ける。
「……行くぞ、ティファ」
「ええ」
ティファは小さく頷いた。
失われた人達を、なかったことには出来ない。
その死を抱えたままでも、前へ進むしかなかった。