第30章 【第二十六話】灯籠の湖
張り詰めていた息が、僅かに漏れた。
「……ええ」
私は、小さく頷く。
「そうね」
ブックマンは、薬莢を握るアレンへ視線を移した。
「クロスの手掛かりが残された以上、先へ進まねばならん。ティムの反応が途絶えた理由も、ヴェインと無関係とは思えぬ」
アレンは厳しい顔のまま頷く。
「師匠は……この先にいるんでしょうか」
答える者はいなかった。
私は、沈んだ鳥居の向こうを見つめる。
ヴェインが最後に残した声が、耳の奥から離れない。
――その時まで、君が“君”のままでいられるといいね。
意味が分からない。
分かりたくもない。
けれど、その言葉は、自分の未来へ伸ばされた冷たい指のように感じられた。
今まで、歌うことを疑ったことはなかった。
父を送った母の歌も。
母を送った自分の歌も。
苦しむ魂を導くための、この力も。
すべて、救いなのだと信じていた。
けれど、もし。
母が、自分へ語らなかった何かを知っていたのだとしたら。
胸の奥で、白銀の光の余韻が微かに揺れた。
その揺らぎを隠すように、私は指先を握り締める。
すると、すぐ隣でラビの手がそれを包み込んだ。
「……ティファ」
もう一度、名を呼ばれる。
今度は、彼の方を向くことができた。
ラビは私を見下ろし、僅かに眉を寄せている。
その表情は、いつものように軽くはない。
むしろ、私よりも痛みを堪えているように見えた。
「今は、オレらがいる」
掠れた低い声だった。
「だから、一人で全部分かろうとすんな」