第30章 【第二十六話】灯籠の湖
私は、ゆっくり顔を上げる。
ラビは湖の向こうを睨んだまま、険しい表情を浮かべていた。
「本当のことが混じってたとしても、あいつが何のために今それを言ったかは別の話さ」
「……でも、母のことを知っているなら」
「だからだろ」
重ねられた手へ、僅かに力が込められる。
「お前が一番揺れる言葉を、わざわざ選んで残したんさ。答えを知りたいのは分かる。でも、今ここで、あいつの言葉だけに引っ張られんな」
胸の奥が、痛いほど揺れた。
ヴェインの言葉は、まだ冷たいまま残っている。
けれど、隣から伝わる温度だけは確かだった。
反対側から、静かな声が落ちる。
「……今は、師匠を見つけましょう」
アレンだった。
私は、ゆっくりと視線を向ける。
アレンは、苦しそうに眉を寄せていた。
けれど、その瞳は真っ直ぐだった。
「ヴェインという男が何を知っているのか、僕にも分かりません。ティファのお母さんのことも、セトラのことも……僕は、何も答えられない」
アレンの手の中で、師匠の薬莢が鈍く光る。
「でも、師匠なら何か知っているかもしれない。少なくとも、あの男と会ったなら、今のティファに必要な手掛かりを持っている可能性があります」
その声には、焦りを押し込めた優しさがあった。
「だから、見つけましょう。絶対に」
胸の奥が、僅かに熱くなる。
リナリーも、少女を抱いたまま顔を上げた。
「私も一緒に探す。ティファ一人に抱えさせたりしないから」
クロウリーも、大きく頷く。
「私も力になるである。何を知らぬとしても、これから知ればよい。皆で探せばよいのである」