第30章 【第二十六話】灯籠の湖
胸の奥が、ゆっくりと熱くなる。
私は、握られた手へそっと指を重ねた。
「……ありがとう」
小さく答えると、ラビは一瞬だけ目を細めた。
それから、いつものように笑おうとして。
けれど、やはり上手く笑えなかったらしい。
代わりに、私の手をもう一度だけ確かめるように握り直した。
誰も、それ以上は何も言わなかった。
夜の湖には、もう歌は聞こえない。
無数の灯籠だけが、沈んだ社の前を静かに通り過ぎていく。
その光の向こうで、ひとつの名が、深く胸の底へ沈んでいった。
――ヴェイン。