第30章 【第二十六話】灯籠の湖
「母とは……どういう関係だったの?」
ヴェインは、すぐには答えなかった。
流れていく灯籠の光が、男の淡い外套へ揺らめいている。
「今ここで話しても、君は信じないだろう」
「そんなこと――」
「それに」
ヴェインの視線が、僅かに湖の向こうへ移る。
「今の君には、先に追うべき人がいる」
その言葉と同時に、彼は外套の内側へ手を入れた。
ラビの鉄槌が、即座に持ち上がる。
「ティファ、下がれ」
けれど、ヴェインが投げたものは武器ではなかった。
小さな金属音を立て、何かが灯籠の間を滑るように飛んでくる。
ラビが片手で受け止めた。
掌に落ちたのは、一発の薬莢だった。
「……これは」
ラビの目が細くなる。
ヴェインは鳥居の上から、静かに告げた。
「赤い髪の男を探しているんだろう?」
胸が跳ねた。
「師匠を知っているの?」
「会ったよ」
「師匠はどこにいるの」
私は一歩踏み出しかける。
ラビの腕が、再びその前へ差し出された。
ヴェインは、その仕草を見て微かに笑った。
「追って来れば分かる」
「待って!」
霧が、鳥居の周囲へゆっくりと集まり始める。
私は声を絞り出した。
「母とは、どういう関係だったの! あの村も、遊園地も……あなたが何をしたのか、答えて!」
ヴェインの姿が、白い霧の中で淡く霞んでいく。
「次に会った時に話そう」
「ヴェイン!」
男は、最後にもう一度だけ私を見た。
その瞳は、笑っているようにも、酷く寂しそうにも見えた。