第30章 【第二十六話】灯籠の湖
「廃遊園地で、生きた少年を繋ぎ止めた時も」
息が止まった。
右腕の傷が、思い出したように疼く。
雨に濡れた廃遊園地。
歪んだ空間。
私を生かしたまま捕らえようとしたAKUMA。
隣で、ラビの鉄槌が低く軋んだ。
「テメェ……」
ラビの声から、温度が消える。
男は、彼の怒気など意に介さず、ただ静かに私を見ていた。
「二度見ても、まだ足りなかった」
「……二度?」
自分の声が、掠れる。
「だから今夜は、この目で確かめたかったんだ」
男の視線が、私の喉元へ落ちた。
「君が、誰かの痛みを前にしても、変わらず歌うのかどうかを」
冷たいものが、背中を這い上がる。
あの村も。
あの遊園地も。
この男は知っていた。
ただ報告を聞いたというだけではない。
まるで、最初からその場にいたみたいに。
「……あなたが、あれを仕組んだの?」
声が、思った以上に震えた。
男は、すぐには答えなかった。
その沈黙が、何よりの答えに思えた。
「君の歌が、どこまで届くのか。確かめる必要があった」
「ふざけんな!」
ラビが、一歩前へ出た。
私の前へ立ち、男の視線を遮る。
「ティファを試すために、あの村も、遊園地も使ったって言いてぇのか」
「ラビ……」
彼の肩越しに見える指が、鉄槌の柄を強く握り締めている。
廃遊園地で負った傷を思い出させるほど、その手には力が籠もっていた。
男は、そこで初めてラビへ視線を向けた。
ほんの僅かな間だけ。
「君は、随分と彼女を大切にしているんだね」