• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第30章 【第二十六話】灯籠の湖


「危険だと思ったら、すぐに戻ってください。師匠のことが気になっても、一人で追わないで」

念を押す声に、胸の奥が少しだけ温かくなる。

「分かってる。ありがとう、アレン」

アレンは一瞬だけ目を伏せた。

けれど、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。

「……はい」

その返事は、以前より少しだけ静かだった。

けれど、そこにある優しさは変わっていなかった。

「ティファ」

すぐ横で、ラビが呼ぶ。

視線を向けると、彼は私の腕を掴んでいた。

「オレから離れんなよ」

低い声。

命令のようでいて、その奥には隠し切れない不安が滲んでいた。

「……ええ」

私は、彼の手へそっと触れる。

その瞬間、ラビの瞳が僅かに揺れた。

けれど、何かを言う前に、道の端に座り込む小さな影が目に入った。

十歳ほどの少女だった。

少女は木箱へ腰掛けたまま、膝の上に真っ白な灯籠を置いている。

右手には筆を持っているのに、紙面には一文字も書かれていなかった。

周囲の町人達は既に名を書き終え、湖岸へ歩いていく。

それでも少女だけは、俯いたまま動かない。

私は、知らず足を止めていた。

「……ティファ?」

ラビが呼ぶ。

私は僅かに振り返る。

「少しだけ」

ラビは何も訊かなかった。

ただ、少し離れた場所で静かに足を止める。

私は少女の前へ歩み寄り、膝をついた。

「……灯籠、書かないの?」

少女の肩が、びくりと小さく揺れた。

ゆっくりと上げられた顔は、泣き腫らしてはいなかった。

ただ、泣くことさえまだ受け入れられていないように、ひどく固まっている。
/ 890ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp