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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第30章 【第二十六話】灯籠の湖


「……どうしたんさ」

隣から、ラビの声が落ちた。

顔を上げると、片方だけ覗く翠の瞳が、静かに私を捉えていた。

「……分からない」

私は小さく首を横へ振る。

「でも、少し前から胸の奥がざわつくの」

「イノセンスが?」

「たぶん」

答えながら、もう一度湖へ目を向ける。

その瞬間、聞こえた気がした。

遠い水底から、誰かが歌っているような音が。

ほんの一節だけ。

風にほどけるより早く消えてしまう、か細い旋律。

「ティファ?」

今度は、ラビだけではなかった。

アレンも身を乗り出すように、こちらを見ていた。

「何か、聞こえたんですか」

「……歌が」

思わず零れた声に、全員の表情が変わる。

「湖の方から、聞こえた気がするの。ほんの少しだけだけど」

アレンが、すぐに窓の外へ視線を向けた。

「師匠の反応が消えた場所で、ティファのイノセンスが反応している……」

その声音には、焦りが滲んでいた。

「無理に探ろうとしないでください。まだ、何があるか分からない」

まっすぐ向けられた視線に、私は小さく頷く。

「分かってるわ」

そう答えながらも、湖から目を逸らすことは出来なかった。

あの水の奥に、何かがある。

そしてそれは、以前にも触れたことのある種類の気配に似ていた。

色を失った村。

雨の廃遊園地。

どちらの場所にも残っていた、終われないものの声。

けれど今は、まだ誰にも告げられなかった。

自分の中でさえ、その予感を認めてしまうのが怖かった。

隣で、ラビの手がそっと私の指を包む。

「……一人で聞こうとすんなよ」

掠れた低い声。

私は、その手の温度へ縋るように、僅かに指先へ力を込めた。

「……ええ」

馬車は、薄暮の湖畔の町へゆっくりと入っていった。
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