第30章 【第二十六話】灯籠の湖
私が選んだのは、ラビだった。
それでもアレンは、気まずそうに距離を置くのではなく、これまでと同じように私を気に掛けてくれている。
そのことが嬉しくて、同時に少しだけ申し訳なかった。
「アレンもよ」
私は静かに返す。
「師匠を見つけた瞬間、一人で突っ込んでいかないで」
「僕はそんな無茶を――」
「するでしょう?」
言い切ると、アレンは一瞬だけ言葉に詰まった。
隣でリナリーが、ふふ、と小さく笑う。
「ティファの方が、アレン君のこと分かってるかもね」
「リナリーまで……」
アレンは困ったように肩を落とした。
その時、隣に座っていたラビの指先が、座席の上でそっと私の左手へ触れた。
誰にも見えない位置で、ほんの僅かに。
大丈夫か、と訊く代わりのように。
私は視線を向けないまま、その指先へ自分の指を重ねた。
それだけで、胸の中に沈んでいた冷たさが、少しだけ薄れる。
やがて、深い山々に囲まれた湖畔の町が見え始めた。
その瞬間、それまで真っ直ぐに飛んでいたティムが、突然、馬車の窓辺で大きく弧を描いた。
「ティム?」
アレンが腕を伸ばす。
けれどティムはその手へ戻ろうとせず、開いた窓から外へ飛び出した。
金色の小さな身体が、夕陽を映す湖の上へ向かう。
一度。
二度。
何かを探すように水面の上を旋回したあと、ティムは弾かれたように馬車へ戻ってきた。
アレンの頭へ止まったティムは、落ち着かない様子で羽を震わせ続けている。