第30章 【第二十六話】灯籠の湖
教団本部を発ってから、数日が過ぎていた。
ティムキャンピーの導きは、途中までは確かだった。
金色の羽を忙しなく震わせながら、ティムは迷うことなく私達を東へ導いた。
立ち寄った酒場や宿にも、確かに師匠の痕跡は残されている。
未払いの勘定書き。
苦い顔で語る宿屋の女将。
赤い髪の異国人が、数日前までそこにいたという証言。
どれも、あまりにも師匠らしいものばかりだった。
「師匠、狙われているかもしれない時に、何をしているんですか……」
馬車の中で、アレンが頭を抱える。
向かいの席に座っていたラビが、手元の紙束をひらひらと揺らした。
「借金の証拠だけは、順調に増えてんな」
「笑い事じゃありませんよ、ラビ。これ、また僕に押し付けられたらどうするんですか」
「その時は、頑張れよ弟弟子」
「他人事みたいに言わないでください!」
思わず、小さく笑ってしまった。
師匠が無事であるなら、この程度の迷惑話はいくらでも聞いていられる。
むしろ、腹立たしいくらい勝手に生きていてくれた方が、安心出来た。
「……笑えるうちは、まだ良いけど」
リナリーが、窓の外を見ながら静かに呟いた。
その一言で、車内に残っていた僅かな軽さが薄れる。
アレンも表情を引き締め、膝の上へ置いた資料を握り直した。
「必ず見つけます」
その声は、師匠を案じるものだった。
けれど次の瞬間、アレンの視線が一度だけ私へ向く。
「ティファも……何か気付いたら、無理をする前に言ってくださいね」
「……ええ」
「師匠のことになると、あなたも周りが見えなくなる時があるから」
以前と同じように、穏やかな声だった。
けれど、その優しさに触れると、胸の奥へ僅かな痛みが残る。