第30章 【第二十六話】灯籠の湖
けれど今は、師匠の命が狙われている可能性がある。
それに。
千年伯爵が捜しているという、“ハート”。
胸の奥で、『ニルヴァーナ』が微かに脈打った。
嫌な感覚だった。
私は無意識に喉元へ手を添える。
「……ティファ?」
隣から、ラビの声が落ちた。
私はすぐに手を下ろす。
「何でもないわ」
けれど、ラビは一瞬だけ私の表情を見つめた。
何かに気付いたのかもしれない。
それでも、ここでは何も聞かなかった。
コムイさんの視線が、静かに私へ向く。
「ティファちゃん。以前も話した通り、君の歌は伯爵側にとって無視出来ないものだ。AKUMAになる前の魂へ干渉出来る以上、君自身が狙われる危険性は高い」
私は膝の上で、手を握り直した。
「今回の任務でも、何かを感じ取ったからといって一人で追わないこと。違和感があれば、必ず仲間へ知らせてほしい」
静かな声音だった。
私は小さく息を吸う。
「……分かりました」
その時、隣で椅子が僅かに軋んだ。
ラビが、ほんの少し姿勢を変えていた。
口元に笑みはない。
片方だけ覗く翠の瞳が、真っ直ぐコムイさんを見ている。
コムイさんは、最後に全員を見渡した。
「クロス元帥を見つけ、敵の襲撃から守り、全員で帰還する。今回の任務は、それでようやく完了だ」
静かな沈黙が落ちる。
師匠を探す。
見つけた先に何が待っているのかは、まだ分からない。
けれど、もうただ会いに行くだけの旅ではない。
私は膝の上で、そっと手を握り締めた。