第30章 【第二十六話】灯籠の湖
その言葉に、アレンが何とも言えない顔をした。
私も思わず視線を逸らす。
酒場、賭場、女性の多い場所。
師匠が好みそうな場所なら、嫌になるほど思い当たった。
「ティムキャンピーに、クロス元帥の癖を知る弟子が二人。これだけ揃えば――さすがのクロス元帥も、今度こそ袋の鼠だよ」
数秒の沈黙。
「……師匠、最初から逃げる前提なんですね」
アレンが疲れたように呟く。
「呼び出しに素直に応じる人なら、四年も消息を絶っていないでしょう」
私が返すと、アレンは力なく頷いた。
「ですよね……」
その隣で、ラビが堪え切れないみたいに吹き出す。
「護衛対象なのに、見つかる前から逃亡犯扱いされてんの、すげぇな」
「笑い事じゃありませんよ、ラビ。見つけたら、今まで押し付けられた借金の件も説明してもらいます」
「おお、アレンが燃えてる」
「当然です!」
ほんの僅かだけ、部屋の空気が緩んだ。
けれど、ブックマンの低い声がそれを引き締める。
「忘れるでないぞ。見つけるまでが問題なのではない」
全員の視線が、ブックマンへ向く。
「伯爵側も元帥を狙っておるなら、ティムがクロスの元へ辿り着く前に敵と鉢合わせる可能性もある」
「ああ」
コムイさんが頷く。
「捜索中に敵と接触する可能性は高い。誰か一人が先行することは避けてほしい。クロス元帥を見つけるまでにも、見つけたあとにも、油断は出来ない」
机の上へ、任務資料の入った封筒が置かれる。
「出発は明朝。準備を整えてくれ」
私は封筒へ視線を落とした。
師匠を探す。
それだけなら、どこか懐かしくさえ思えたかもしれない。