第30章 【第二十六話】灯籠の湖
Side:ティファ
朝食を終えて食堂を出ると、回廊には冷たい空気が満ちていた。
窓の外では、薄い雪が静かに降り続いている。
少し前を、神田が歩いていた。
私は無意識に、その背中を目で追っていた。
ラシードでの任務を終えてから、神田との間には、ほんの少しだけ空気の変化があった。
それが何なのか、自分でも上手く言葉には出来ない。
ただ、以前よりも、彼の背中を見送る時に胸へ引っ掛かるものが増えた気がした。
「……ティファ」
隣から低い声が落ちる。
顔を上げると、ラビがこちらを見ていた。
軽く笑っている。
けれど、片方だけ覗く翠の瞳は、どこか静かだった。
「何か考え事?」
「……少しだけ」
「ユウのこと?」
心臓が、僅かに跳ねた。
私は咄嗟に答えられず、前を歩く神田の背中へ一度だけ視線を向ける。
「……任務のことを、少し思い出しただけよ」
ラビは数秒、私を見つめていた。
何かを察したのかもしれない。
けれど、追及はしなかった。
「そっか」
軽く落ちた声。
その響きだけが、ほんの少し低く聞こえた。