第30章 【第二十六話】灯籠の湖
「本当に、何なのよ……」
「やれやれ。面倒なことになったのう」
ブックマンが深々と息を吐く。
「じじい、余計なこと言うなって」
「お前が一番面倒を増やしとるわい」
ラビが苦い顔をする。
神田はそんな二人を一瞥し、すぐに前を向いた。
「……置いてくぞ」
「あ、待って」
ティファの足音が、すぐ後ろから追ってくる。
少し遅れて、ラビの足音も重なった。
朝の回廊へ、三人分の靴音が響いていく。
神田は振り返らなかった。
ただ、すぐ後ろにいる銀髪の気配を、以前のように鬱陶しいだけだとは思えなかった。
過去を見られた。
痛みに触れられた。
それでも、あいつは離れなかった。
なら。
自分も、もう逃げるつもりはない。
たとえ、あいつの隣に既に別の男がいるとしても。
それでも、目を逸らす気はなかった。