第30章 【第二十六話】灯籠の湖
隣で、ラビが分かりやすく息を吐く。
「ティファ、オレと朝飯行く話だったよな?」
「神田もまだなら、一緒でいいでしょう?」
「そりゃ駄目とは言わねぇけどさぁ……」
言葉とは裏腹に、声には明らかな不満が混じっている。
神田は冷たく鼻を鳴らした。
「嫌なら失せろ」
「何でユウに追い出されんの、オレ?」
「朝から鬱陶しいからだ」
「お前、ほんと可愛げねぇな!」
「二人とも、朝から喧嘩しないで」
ティファが小さく溜息を吐く。
ブックマンが呆れたように口を挟んだ。
「飯を食うのか、ここで朝から殺り合うのか、どちらかにせい」
「殺し合いでいい」
「よくないわよ」
ティファが即座に返す。
その声に、神田は一瞬だけ黙った。
少し前までなら、誰に何を言われても歩き去っていた。
けれど神田は何も言わず、食堂の方へ歩き出す。
「飯だろ。行くならさっさとしろ」
「ええ」
背後でティファの足音が続いた。
同時に、ラビの気配がほんの僅かに変わる。
「……ユウ」
低い声。
神田は足を止めずに返す。
「何だ」
「お前さ」
ラビは一度言葉を切った。
「随分、ティファに懐いたんじゃねぇの」
神田の足が止まる。
数歩後ろで、ティファが首を傾げる気配がした。
「ラビ?」
「んーん。何でもねぇ」
ラビは笑って誤魔化した。
けれど、神田を見る目だけは笑っていない。
神田はゆっくり振り返る。
「……だったら何だ」
空気が、静かに張った。
ティファが何も分からないまま、二人を見比べている。
ブックマンだけが、面倒そうに目を細めた。