第29章 【幕間】月影の楽園 後日談 ―帰る場所
「……でもさ」
低い声。
「オレ、あんま余裕ある男じゃねぇから」
私は僅かに目を見開く。
ラビの腕へ、少しだけ力が籠もった。
「好きな子が、他の男のことでずっと苦しそうにしてんの」
掠れた声。
「普通に嫉妬する」
私は小さく息を呑む。
洋服越しに伝わる体温が、妙に近かった。
ラビは滅多に、こんな声を出さない。
冗談めかして誤魔化すことはあっても。
こんな風に、不安をそのまま見せることは。
私はそっと、ラビの背中へ触れた。
「……ごめんなさい」
小さく零す。
すると、ラビがすぐ苦笑した。
「だから、謝ってほしい訳じゃねぇんさ」
肩口へ落ちる声。
「ユウが重いもん抱えてるの、オレだって分かる」
静かな声だった。
「ティファが放っとけないのも」
私はゆっくり目を伏せる。
ラビの腕の中は、落ち着く。
安心する。
なのに今は、その優しさが少しだけ苦しかった。
「……でも」
ラビが小さく息を吐く。
「オレの前にいる時くらい、オレのこと考えてほしい」
「……お前、気付くと誰かの痛みの方へ行っちまうから」
どくり、と胸が鳴る。
私は無意識に、洋服を掴む指先に力を込めた。
「考えてる」
掠れた声。
「ちゃんと、ラビのことも」
ラビが僅かに身体を止めた。
けれど、次に落ちてきたのは、少し困ったような笑い声だった。
「……“も”って言われると、複雑」
「……あ」
自分で言ってから気付く。
慌てて顔を上げようとすると、ラビは私の肩へ額を預けたまま、小さく笑った。
「冗談」
「もう……」
「でも、半分は本気」