第29章 【幕間】月影の楽園 後日談 ―帰る場所
その時だった。
こんこん、と扉が鳴る。
私は本から顔を上げた。
「どうぞ」
扉が開く。
覗いた赤茶色の髪に、思わず表情が緩んだ。
「お邪魔するさー」
ラビだった。
片手に湯気の立つマグカップを持っている。
少し湿った髪。
どうやらお風呂から戻ってきたばかりらしい。
「まだ起きてたんだな」
「眠れなくて」
私が本を閉じながら答えると、ラビは「ふぅん」と小さく笑った。
そして当然みたいな顔で、私の横へ腰を下ろす。
机へマグカップを置く音。
甘い香りが、ふわりと広がった。
「ココア?」
「ティファ、こーいう時あったかいの飲むと、ちょっと落ち着くだろ」
私は思わず小さく笑う。
「子供扱いしてる?」
「してないさ」
ラビは肩を竦める。
「でも最近、難しい顔ばっかしてんだろ」
図星だった。
私は視線を逸らしながら、マグカップへ手を伸ばす。
温かい。
指先へじんわり熱が移る。
ラビはそんな私をじっと見ていた。
いつもの軽い笑顔じゃない。
静かに様子を窺うみたいな目。
私は少しだけ困ったように笑う。
「……そんなに分かりやすい?」
「恋人なめすぎ」
即答だった。