第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編
ラビは数秒だけ神田を見て、それからふっと笑った。
「……そっか」
それ以上は、何も言わなかった。
けれど、片方だけ覗く翠の瞳は、少しも笑っていなかった。
その時。
「ラビー!!」
食堂の入口から、アレンの怒声が響いた。
「また寝てる間に、僕の顔に落書きしましたね!?」
ラビが露骨に顔を顰める。
「あ、やっべ」
振り返ると、布巾を持ったアレンが、頬へ黒い落書きを残したままこちらへ向かって来ていた。
片方の頬には、妙に整った髭まで描かれている。
ラビはそれを見て、堪え切れず吹き出した。
「いやぁ、今回かなり上手く描けたと思うんだけど」
「思わなくていいです!!」
私は思わず笑ってしまう。
するとラビが、ぱっとこちらを振り返った。
「ティファ、助けて〜」
「嫌よ」
即答だった。
ラビが露骨に肩を落とす。
「酷くねぇ? 任務帰りの恋人、見捨てるとか」
「自業自得でしょ」
「そんなぁ」
わざとらしく嘆きながら、ラビが私の後ろへ回り込もうとする。
けれど、その前に。
「食ってる最中だ。邪魔すんな」
低い声が落ちた。
神田だった。
ラビの動きが、ぴたりと止まる。
一瞬の沈黙。
片方だけ覗く翠の瞳が、静かに細められた。
「……随分、丸くなったんだな」
低く笑う。
「殺されてぇのか」
神田の眉間へ、深い皺が刻まれる。
けれどラビは、それ以上追及しなかった。
私はますます意味が分からず、首を傾げた。
「だから、何の話なの?」
「ティファは知らなくていいさ」
ラビは軽く笑う。
けれど、その声は少しだけ苦かった。