• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編


『待ってろ』

血に濡れた指が、砂を掻く。

『必ず、迎えに行くから』

けれど、その声が彼女へ届くことはなかった。

倒れた身体。

動かない瞳。

広がっていく血。

彼は、サフィアを置いていきたかったわけではなかった。

彼女を守るために、一度離れただけだった。

それでも。

サフィアに残されたのは、来なかった約束だけだった。

置いていかれた夜だけだった。

やがて、彼の死を知った時。

サフィアの中で、何かが壊れた。

違う。

置いていかれたんじゃない。

彼は戻ろうとしていた。

そう分かっても、もう遅かった。

彼は死んでいた。

自分だけが、生きていた。

「どうして」

掠れた声。

「どうして、私をひとりにしたの」

夜の路地裏で、サフィアは何度も彼の名を呼んだ。

――置いていかないで。

――お願い。

――ひとりにしないで。

その時。

甘い囁きが、闇の底から落ちてきた。

呼べばいい。

愛しているなら、呼び戻せる。

黒い影。

笑う口元。

差し伸べられた手。

サフィアは、縋った。

ただ、もう一度だけ彼に会いたかった。

置いていかれたくなかった。

もう一人に戻りたくなかった。

だから。

彼女は、その手を取った。

亡くした男の名を呼んだ。

その瞬間。

願いは、呪いへ変わった。

呼び戻されたのは、確かに彼だった。

けれど、その魂が与えられたのは救いの身体ではなく、伯爵の作った機械の器。

そして、生まれたAKUMAは最初にサフィアを殺し、彼女の皮を被った。
/ 840ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp