第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編
路地の端には、古びた鉄格子があった。
その奥に、地下へ続く梯子が見える。
湿った冷気が、下から吹き上がってくる。
「神田」
呼び掛けると、彼は数秒黙ったあと、低く言った。
「気配が濃い。ここだ」
ぞわり、と背筋が冷える。
その瞬間。
地下の暗闇から、女の笑い声が聞こえた。
――見つけてくれるの?
甘い声。
――今度こそ。
神田の空気が揺れた。
私は反射的に、その腕を掴みかける。
けれど、先程の言葉が脳裏を掠めた。
――もう、さっきみたいに勝手に触んな。
指先が、寸前で止まる。
代わりに、私は真っ直ぐ神田を見た。
「……一人で行かないで」
神田の身体が、僅かに強張る。
蒼い瞳が、一瞬だけこちらを向いた。
数秒の沈黙。
やがて神田が、小さく舌打ちする。
「……足引っ張んなよ」
ぶっきらぼうな声。
けれど、一人で先へ行こうとはしなかった。
私は小さく息を吐く。
「分かってる」
そう答えた瞬間だった。
地下へ続く鉄格子の奥で、何かが軋む音がした。
ぎしり、と。
石壁を引っ掻くような、不快な音。
神田の目付きが変わる。
「……来るぞ」
次の瞬間、闇の奥から丸い影が転がるように飛び出してきた。
金属質な胴体。
歪んだ笑み。
額に浮かぶペンタクル。
レベル一のAKUMA。
それも、一体ではない。
二体。
三体。
狭い地下入口を埋めるように、次々と姿を現す。