第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編
「神田」
静かに呼ぶ。
返事はない。
そこへ遅れて到着したナジームが、灰の残る床を見て息を呑んだ。
「……間に合いませんでしたか」
私は小さく首を横へ振る。
ナジームは唇を噛み、やがて慎重に神田へ視線を向けた。
「先程の女……明らかに神田さんを狙っています」
神田の空気が、ぴたりと冷えた。
「何が言いてぇ」
「これまでの証言を見る限り、被害者は大切な者の姿や声を見せられていたようです。ですが、神田さんへの干渉は……もっと個人的に見えます」
「個人的?」
「大切な者を見せるだけではなく、その人が一番触れられたくない記憶を抉っているように見えます」
神田の目が、冷たく細められた。
「……黙れ」
鋭い声だった。
ナジームはそれ以上、言葉を続けなかった。
沈黙が落ちる。
私は小さく神田を見る。
彼は何も言わない。
けれど、六幻の柄を握る指だけが、白くなるほど強張っていた。
ナジームが、今度は私へ視線を向ける。
「ティファさん。先程、何か見えたんですか」
白い部屋。
拘束具。
血。
黒い髪の少年。
断片的な光景が、まだ頭の奥へ焼き付いている。
けれど、私はすぐには答えられなかった。
それを口にすることは、神田が隠している傷を、他人の前へ晒すことになる。
「……」
答えを迷った、その時。
「余計な詮索すんな」
神田が低く口を開いた。
掠れた声だった。
ナジームは一瞬だけ言葉を詰まらせる。
けれど、すぐに小さく頭を下げた。
「失礼しました」