第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編
その時、後ろから足音が近付いた。
「ティファさん!」
ナジームが息を切らしながら駆けて来る。
彼の視線が、私の手の中にある赤い布へ止まった。
「それは……」
「さっきの女が落としていった」
神田が低く答える。
ナジームの顔色が変わった。
「その布と同じものを見たという証言があります。“傷のある踊り子”です」
やはり。
あの女が、サフィア。
その時だった。
――ユウ。
今度は、はっきりと声が聞こえた。
神田の指先が、ぴくりと強張る。
私は息を呑む。
やっぱり、この声は神田へ向けられている。
「……聞こえてるの?」
問い掛けると、神田の眉間へ深い皺が刻まれた。
「知らねぇ」
低い声。
「気持ち悪ぃ声がしてるだけだ」
吐き捨てるような声音。
けれど、その拳は解けないままだった。
ナジームが僅かに表情を曇らせる。
「精神干渉……」
その時、遠くからファインダーの声が響いた。
「ナジーム! また被害者が出た!」
空気が一瞬で張り詰める。
「場所は?」
「西側の宿屋だ! 泊まっていた男が急に錯乱して、部屋の中で暴れている!」
神田が舌打ちした。
「増えてやがる」
ナジームが素早く顔を上げる。
「調査班は周辺の避難を優先します。お二人は――」
「行くぞ」
神田が即答した。
「今なら、まだ気配を追える」
私は小さく頷く。
「ええ」