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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編


私は何も返せなかった。

その時。

――しゃらり。

鈴の音が、暗闇の奥で響いた。

私は反射的に顔を上げる。

路地裏の向こう。

建物の影に、赤いヴェールが見えた。

「待って!」

声を上げた瞬間、赤い影は闇の奥へ消える。

その直後、神田が地面を蹴った。

「神田!」

私は慌てて後を追う。

狭い路地裏を駆け抜ける。

石壁。

入り組んだ階段。

湿った夜風。

前方を走る神田は、一切迷わない。

まるで、あの声へ導かれているみたいに。

――ユウ。

甘い声が、夜の闇へ溶ける。

神田の肩が僅かに強張った。

けれど、足は止まらない。

赤いヴェールが、建物の隙間でふわりと揺れる。

長い黒髪。
褐色の肌。
こちらを見て笑う、暗い瞳。

神田が一気に距離を詰めた。

だが、次の瞬間。

女の姿が霧みたいに揺らぎ、その場から消えた。

残ったのは、静かな路地と、砂埃と、どこからか響く鈴の音だけ。

「……逃げやがった」

神田が低く舌打ちする。

けれど、その呼吸は僅かに乱れていた。

私はそっと声を掛ける。

「……また、聞こえるの?」

神田は数秒黙ったあと、低く吐き捨てた。

「知らねぇ」

その拳だけが、強く握り締められている。

不意に、路地裏の奥から歌声が聞こえた。

甘く。
静かで。
泣いているみたいな声。

――置いていかないで。

ぞわり、と空気が震える。

神田の目が僅かに見開かれた。
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