第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編
「……神田」
返事はない。
私は少し足を速め、彼の隣へ並んだ。
「さっきの声……聞こえたのね」
神田の肩が、僅かに止まった。
「知らねぇ」
低い声。
「ただの幻聴だろ」
「ただの幻聴なら、あんなふうに――」
「深入りすんな」
低い声が、私の言葉を断ち切った。
私は息を呑む。
神田は前を向いたまま、こちらを見ようともしない。
それは明らかな拒絶だった。
けれど同時に、触れられたくない場所を必死に押し隠しているようにも見えた。
さっき私へ流れ込んできた、白い光景。
水面。
蓮の花。
倒れ込む細い身体。
そして、あの声。
――ユウ。
胸の奥が、嫌なほどざわつく。
けれど、これ以上問い詰めてはいけない。
そう思った、その時だった。
――しゃらり。
鈴の音が、夜の路地へ響いた。
私は弾かれたように顔を上げる。
暗い路地の奥。
月明かりの届かない影の中で、赤いヴェールが一瞬だけ揺れた。
「……いた」
神田の空気が、一瞬で変わる。
六幻へ手を掛け、迷いなく地面を蹴ろうとした。
「待って!」
私は咄嗟に、その腕を掴んだ。
触れた瞬間だった。
どくん、と。
喉の奥で『ニルヴァーナ』が、異様なほど強く脈打った。
「っ……!」
視界が白く弾ける。