第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編
舞台の上で、赤いヴェールの女がひどく嬉しそうに笑っていた。
まるで、ずっと探していた傷口を見つけたみたいに。
「……外へ出るぞ」
神田が低く吐き捨てた。
「ここじゃ斬れねぇ」
その言葉に、私は一瞬だけ周囲を見回した。
熱狂する客達。
舞台を見つめる踊り子達。
この場で戦闘になれば、巻き込まれる人間が多過ぎる。
それに、赤いヴェールの女の視線は、明らかに神田だけを追っていた。
「神田!」
慌ててその背中を追い掛ける。
振り返ると、ナジームも状況を察したように立ち上がっていた。
「ナジーム。この店をお願い。客を刺激しないように見張って、少しでも異変があれば避難させて」
「分かりました。舞台裏と従業員側も当たります」
彼はすぐに頷く。
私はもう一度だけ、舞台へ視線を向けた。
サフィアは踊り続けていた。
鈴の音を響かせながら、酒場中の視線を浴びながら。
けれど、赤いヴェールの奥の暗い瞳だけは、最後まで神田の背中を追っていた。
酒場を出た瞬間、熱気が一気に遠ざかった。
夜風が火照った頬を冷やしていく。背後からはまだ、音楽と歓声が濁った波のように響いていた。
けれど、神田は無言のまま前を歩き続ける。
その歩調は速く、苛立ちを隠そうともしていない。