第27章 【幕間】神田/月影の楽園 前編
私は反射的に顔を上げる。
人混みの奥で、赤い布が一瞬だけ揺れた気がした。
けれど、次の瞬間にはもう誰もいない。
「……ティファ?」
神田の低い声で、我に返る。
「……今、誰かいた気がして」
嫌な感じだった。
まるで、こちらを見て笑ったみたいな。
その時だった。
「――エクソシスト様ですか」
不意に、低い声が背後から掛かる。
振り返ると、白い外套を纏った男が立っていた。
浅黒い肌。
鋭い目付き。
旅人や商人でごった返す通りの中で、彼だけが周囲の流れから少し外れた場所に立っている。
外套は砂埃で汚れていたが、襟元から覗く白いコートの形には見覚えがあった。
ファインダーだ。
「ナジームです」
男は声を潜め、小さく頭を下げた。
「現地での案内と、情報共有を担当します。合流地点が少し騒がしくなってしまい、申し訳ありません」
私は小さく息を吐いた。
無事、合流出来たらしい。
神田は相変わらず不機嫌そうな顔で、ナジームを一瞥する。
「遅ぇ」
「昨夜また失踪者が出ました。その件で、歓楽街の入口が少し混乱しています」
ナジームは周囲へ一度だけ視線を走らせる。
人々は私達の会話など気にせず、市場の喧騒の中を行き交っていた。
「詳しい話は、歩きながら。ここでは目立ちます」
「分かったわ」
私は小さく頷き、ナジームの隣を歩き出した。
「昨夜消えた人のことを教えて」
私が問うと、ナジームの表情が僅かに曇った。