第27章 【幕間】神田/月影の楽園 前編
翌朝。
まだ陽も昇り切らない本部前には、白い朝靄が薄く漂っていた。
石畳を湿らせる冷たい空気の中、私は荷物を持ち直す。
黒い外套の裾が朝風に揺れ、喉元では『ニルヴァーナ』が静かに脈打っていた。
本部地下の小舟乗り場には、既に出航準備を終えた教団の小舟が停泊している。
その傍らに、神田が不機嫌そうな顔で立っていた。
私は歩み寄りながら、小さく息を吐く。
「待った?」
「別に」
即答だった。
相変わらず愛想がない。
私は思わず小さく苦笑した。
そのまま小舟へ向かいかけた時、神田がふと本部側の通路へ視線を向けた。
ほんの一瞬。
けれど、何かを探すみたいな目だった。
「……どうしたの?」
私が問うと、神田はすぐに視線を逸らす。
「別に」
「またそれ?」
「うるせぇ」
ぶっきらぼうに返され、私は小さく肩を竦めた。
ふと、胸の奥へ寂しさが落ちる。
いつもなら、こういう時にはラビが何だかんだ理由を付けて顔を出す。
送り出すだけのつもりなのに、結局ぎりぎりまでそばにいて、最後には決まって「ちゃんと帰って来いよ」と言うのだ。
けれど、今日は来ない。
ラビは昨日から別任務で地方へ発っている。
分かっていたことなのに、少しだけ心細かった。