第27章 【幕間】神田/月影の楽園 前編
神田の目が、僅かに鋭くなる。
「……止める前提かよ」
「最悪を考えておくのが、室長の仕事だからね」
コムイさんの目は笑っていなかった。
私は小さく息を呑み、机の上へ広げられた資料へ視線を落とす。
乾いた石造りの街並み。
色鮮やかな市場。
夜の歓楽街で、ひときわ強い灯りを放つ酒場。
極彩色の装飾。立ち昇る煙。酒の杯を掲げる人々。舞台の上で踊る女達。
その写真の下には、異国の文字と共に店の名が記されていた。
『月影の楽園』
「任務地は、中東方面の都市国家ラシード」
コムイさんの声音が低くなる。
「最近、この歓楽街一帯で失踪事件が相次いでいる。現地ファインダーの調査で、AKUMA反応も確認された」
私は資料を捲る。
夜の路地裏。
散らばった荷物。
石畳の隅へ薄く残った黒い灰。
喉の奥で、『ニルヴァーナ』が微かに脈打った。
「被害者の多くは、歓楽街周辺で消息を絶っている。中には、“傷のある踊り子を見た”という証言もあった」
そう言って、コムイさんが一枚の写真を差し出す。
そこへ写っていたのは、一人の女だった。
長い黒髪。
褐色の肌。
煌びやかな踊り子衣装。
そして、美しい顔の右側へ走る、大きな裂傷痕。
「サフィア。元は、この歓楽街でも有名だった踊り子だ」