第27章 【幕間】神田/月影の楽園 前編
その笑みが、妙に癇に障った。
責めるわけでも、怖がるわけでもない。
まるで、神田がどれだけ不機嫌に突き放しても、最初から気にするつもりなどないみたいに。
ティファは資料を窓際へ置くと、近くの棚から清潔な布と薬を取り出した。
神田の眉間へ、深い皺が寄る。
「何してやがる」
「手当て」
「いらねぇ」
「いるわよ」
即答だった。
ティファは彼の返事など待たず、薬の蓋を開ける。
「貸して」
「断る」
「神田」
静かな声だった。
けれど、妙に逆らいにくい響きがあった。
神田は苛立ったように舌打ちしながら、腕を引くことを諦める。
ティファの指先が、傷の周囲へそっと触れた。
一瞬、腕が強張った。
痛みのせいではない。
他人にこうして傷を扱われることが、ひどく鬱陶しかった。
傷は塞がる。
死なない。
なら、それでいい。
周囲も、いつしかそう扱うようになった。
神田は怪我をしてもすぐに治る。放っておいても動ける。だから問題ない。
それで困ったことなどなかった。
なのに。
「……痛むでしょう」
低く、柔らかな声が落ちる。
神田の呼吸が、ほんの一瞬だけ止まった。
「……別に」
「別に、じゃないわ」
ティファは傷口へ視線を落としたまま、静かに続ける。
「治ることと、痛くないことは違うでしょう」