第27章 【幕間】神田/月影の楽園 前編
痛みを知らないわけではない。
失うことを恐れていないわけでもない。
それでも、ティファは生きている側へ人を引き戻そうとした。
まるで、傷付いても立ち上がることだけは諦めないとでも言うように。
「……チッ」
神田は苛立ったように包帯を引き千切り、腕へ巻こうとする。
だが、不意に背後から足音が聞こえた。
「神田?」
その声に、手が止まる。
振り返ると、廊下の入口にティファが立っていた。
黒い団服姿。
片手には、任務報告書らしい紙の束を抱えている。
長い銀髪が、窓から差し込む淡い光を受けて静かに揺れていた。
神田は即座に顔をしかめる。
「……何だ」
「それ、こっちの台詞よ。こんなところで何してるの?」
「見りゃ分かんだろ」
「分からないから聞いてるの」
相変わらず、引かない。
神田は苛立ったように視線を逸らし、再び腕へ包帯を巻こうとした。
だが、その血の滲んだ腕を見た瞬間、ティファの表情が僅かに変わった。
「……まだ血が滲んでるじゃない」
「大したことねぇ」
「大したことないかどうかは、傷を見てから決めるわ」
「お前にだけは言われたくねぇ」
低く返すと、ティファが一瞬だけ目を丸くした。
それから、困ったみたいに小さく笑う。
「……それは、否定出来ないかも」