第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
Side:神田
ティファの寝息が、規則的な汽車の音へ紛れていた。
神田は、窓枠との間へ差し込んだ自分の団服から、ゆっくり手を離す。
何をしているのか。
自分でも分からなかった。
ただ、揺れに任せてこいつの頭が窓へぶつかるのが、妙に気に食わなかった。
それだけだ。
そう思おうとして、神田は小さく舌打ちする。
視界の端で、眠るティファの銀髪が揺れた。
舞台へ立った時の姿が、脳裏へ蘇る。
深紅のドレス。
歌声。
血の滲んだ腕。
そして、あの支配人が伸ばした手。
あの瞬間。
任務だとか、確保だとか、証拠だとか。
そんなものは一瞬で頭から消えていた。
ただ、触れさせるなと思った。
あの男の手を、ティファへ触れさせたくなかった。
それだけで、六幻を抜いていた。
路地裏でも同じだった。
弾丸を斬るだけなら、出来た。
なのに身体が先に動いた。
気付けば、自分の腕の中へ引き寄せていた。
その感触が、まだ腕に残っている。
「……ちっ」
神田は低く舌打ちした。
思い出すのは、それだけじゃない。
出発前。
赤毛の馬鹿が、当然のようにティファの前へ立った。
――恋人がそんな格好で潜入するとか、普通に心配だろ。
あの一言が落ちた瞬間、胸の奥がざらついた。