第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
「支援者達の名簿と、観客を誘導していた証拠も押さえました。劇場側の残党も調査へ回します」
支配人の顔が、ようやく絶望に染まる。
「馬鹿な……! この美しさが分からないのか……!」
男はなおも喚き続ける。
けれど、トマ達に両腕を押さえられ、舞台袖へ引きずられていった。
その途中、トマがこちらへ振り返る。
「ただ、支配人の護衛として使われていたAKUMAが、もう一体確認出来ていません。周辺を捜索させていますが、劇場を出る際も十分注意してください」
「分かったわ」
私は静かに頷いた。
舞台の上には、壊れた装置とAKUMAの塵。
煤煙の匂い。
混乱した観客達の嗚咽。
そして、冷え切った静寂だけが残っていた。
張り詰めていたものが、ようやく緩む。
私は小さく息を吐いた。
その瞬間、身体が僅かに揺らぐ。
「……おい」
低い声と同時に、腕を掴まれた。
神田だった。
私は慌てて足へ力を入れる。
「大丈夫よ」
「大丈夫な奴はふらつかねぇ」
即答だった。
神田の視線が、裂けた袖の奥、私の腕へ走った赤い傷へ落ちる。
眉間の皺が、さらに深くなる。
「……また傷増やしやがって」
「浅い傷よ」
「深さの話はしてねぇ」
低く吐き捨てる声音。
けれど、掴んでいる手は意外なほど慎重だった。
私は少しだけ目を瞬く。
神田は私の視線に気付くと、すぐ手を離した。
そして、露骨に顔を背ける。
「……帰るぞ」
「ええ」
私は小さく頷き、壊れた舞台を後にした。